子どもに読ませたい漫画の感想、レビュー

3人の子を持つ漫画好きの父親が、これまでの読んだ1万冊以上の漫画の中から子どもに読ませたい漫画を紹介します。

赤ちゃん用の本が絵本から始まるように、文字だけでなく絵でも情報を伝えてくれる漫画は子どもが情報を吸収するためにはとても便利な媒体です。子どもに読ませたい(読ませたくないと思ったものも含め)漫画を感想・レビューとともに紹介します。
漫画の簡易評価をカテゴリとして整理していますので、お勧め漫画から見たい方はカテゴリもご参照ください。

  • お勧め度: ☆☆(食への興味のきっかけに)
  • 対象年齢: 10歳以上(少し難しい内容もあります)
  • 初発表年: 1983年
美味しんぼ

概要

東西新聞文化部社員、山岡士郎と栗田ゆう子を主人公に、食をテーマとして毎回様々なストーリーが展開される。本作品は人気を博し、のちにアニメ、ゲーム、テレビドラマ、映画化など様々なメディア展開もなされた。
タイトルの『美味しんぼ』は雁屋による造語で、フランス語の「グルマン」に近い意味である。「食べ物を題材にした漫画を描いて欲しい。」と依頼された雁屋は、自分でタイトルを考えるのが面倒なため、担当編集者に作品タイトルを考えてくれるよう依頼した。しかし、担当編集者が出したタイトル案は「味で勝負」「味キング」「味一番」などであり、それを聞いた雁屋は「腰を抜かして」自分で考える事にしたのだという。グルメ漫画および日本のグルメブームの中心となったと一般に言われている。また、題材となる食べ物の種類も、和、洋、中、アジア、精進料理に庶民の食べ物までと幅広い。米、鯨、食品添加物など食文化に関するもの、食と関係ない様々なテーマについても問題を提起する回もしばしば存在する。

食に関する意識を変える漫画

「美味しんぼ」、個人的には大好きな漫画シリーズです。この本をきっかけに食の安全性や身の回りの安全性に興味を持つことになり、大学入学のために東京へ上京し、最初に買い揃えた漫画が「美味しんぼ」でした。

食に対して、これだけ真剣に向き合おうとした漫画は「美味しんぼ」が初めてではないでしょうか。

素材や真心を大切に

最近の「美味しんぼ」については賛否両論あり、原発をめぐって休載に追い込まれたという話までありますが、食に関しては一貫した主張があります。

それは、素材を大切にすることと、料理は愛情であること。「素材を大切」が行き過ぎて、過激な発言や極端な発言になることもありますが、素材や真心が大事であるという主張には共感できます。

考え方を教えてくれる漫画

あと、忘れてはいけないのが、食だけでなく、物事の見方や考え方も教えてくれることです。

特に主人公の父親である海原雄山は、世の中の権威や常識にとらわれず、自分自身の尺度で物事を判断することを教えてくれます。だからこそ、「美味しんぼ」を初めとする漫画にかかれた事も、そのまま鵜呑みにしないことも学んで欲しいです。

自分の目で判断せずに「美味しんぼ」にかかれたことを妄信してしまうと極端な思考の持ち主になってしまいそうなので...。

一人前

グルメブームを巻き起こす

まぁ、漠然と誤魔化しながらも批判的な話も書いてしまいましたが、最初にも書いたとおり、僕自身はこの漫画が好きなんです。

「美味しんぼ」が世に出た1983年はバブル景気直前。テレビではおしんが放映されていたころ。こんな時代に、食の安全性や美食を取り上げていた漫画や本は少なかったのではないでしょうか。

そして、時代はバブル景気へと突入し、「美味しんぼ」は空前のグルメブームのきっかけにもなります。日本人の食への意識を変えた漫画だとも言えるのではないでしょうか。

僕の友人のお酢屋さんも「美味しんぼ」に取り上げられて大反響があったそうです。「美味しんぼ」に取り上げられたことで、命をつないだり復活している飲食関係の老舗も多いと思います。

食べてみたい

ごちゃごちゃ書きましたが、何よりもの魅力は、出てくる料理を食べてみたくなることです。食べてみたくなるような料理だからこそ、賛否両論巻き起こしたりグルメブームを巻き起こしたりと、大きな影響力を持つようになったのでしょう。

食に興味を持つきっかけとしても、一度は目を通して欲しい漫画です。ただし、そのときは内容を妄信しないように気をつけながら。


  • お勧め度: ☆☆☆(映画も良かった)
  • 対象年齢: 15歳以上(中学生以上かなぁ)
  • 初発表年: 2007年
この世界の片隅に

あらすじ

1944年(昭和19年)2月、絵を描くことが得意な少女浦野すずは、広島市江波から呉の北條周作のもとに嫁ぐ。戦況の悪化で配給物資が次第に不足していく中、すずは小姑の黒村径子の小言に耐えつつ、ささやかな暮らしを不器用ながらも懸命に守っていく。しかし軍港の街である呉は1945年(昭和20年)3月19日を境に頻繁に空襲を受けるようになる。同年6月22日の空襲で、通常爆弾に混ぜて投下されていた時限爆弾(地雷弾[3])の爆発により、すずは姪の黒村晴美の命と、自らの右手を失う。意識が戻ったすずは径子に責められる。同年7月1日の空襲では呉市街地が焼け野原となり、郊外にある北條家にも焼夷弾が落下した。見舞いにきた妹のすみは、江波のお祭りの日に実家に帰ってくるように誘う。その当日である8月6日の朝、径子はすずと和解し、すずは北條家に残ることを決意する。その直後に広島市への原子爆弾投下により、爆心地から約20キロメートル離れた北條家でも閃光と衝撃波が響き、広島方面からあがる巨大な雲を目撃する。8月15日、ラジオで終戦の詔勅を聞いたすずは家を飛び出し泣き崩れる。翌年1月、すずはようやく広島市内に入り、草津にある祖母の家に身を寄せていたすみと再会。両親は既に亡くなっており、すみには原爆症の症状が出ていた。廃墟となった市内で、すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝しながら、戦災孤児の少女を連れて呉の北條家に戻った。

戦争と日常と

「この世界の片隅に」は、夕凪の街の世界を山を隔てた呉から描いた作品です。

一話一話の中に起承転結があり、一話だけを見ると戦時下の日常が淡々と書かれているだけのようですが、連続して読むと徐々に生活が困窮していく様子や戦火が身の回りに迫り、やがて原子力爆弾として焼き尽くしていきます。

ふんわりとした絵と淡々とした語り口、ぼーっとしたというか飄々とした主人公なので悲壮感はあまりないのですが、この世界には厳しい現実があります。淡々とした日常の中に、戦争や死という非日常が徐々に溶け込んでいくのです。

非日常である戦争を書いた漫画や小説はあっても、日常の中に溶け込んでいく戦争を書いたものは少ないのではないでしょうか。。

世界のどこかでは

今、このブログを書いている最中にも、世界には紛争や戦火に巻き込まれている地域があります。今は平和に見える日本も、いつ戦争に巻き込まれるかわかりません。

「この世界のあちこちのわたしへ」という一言から始まる物語は、すずの物語でもあるのですが、大きな力や大きな流れに奔走させられる自分自身の物語でもあるのでしょう。

戦時中の暮らしと庶民の強さ

「この世界の片隅に」は戦時中の暮らしを知る本としても役に立つのでしょう。そして、物資が減っていき、建物が減っていき、人も減っていく中での庶民の力強さも描かれている気がします。

はだしのゲンに出てくる庶民は、もっと戦争万歳で好戦的な感じな上に、もっとギラギラしていますが、実際は「この世界の片隅に」の世界のほうが近かったのではないでしょうか。

映画も良いです

この記事を書いている2017年2月現在、映画がロングラン上映されています。戦争が日常にある怖さやすずの強さがわかる良い映画でした。原作のほうが映画よりもより淡々とした印象がありますが。

そして、2017年夏には北米でも上映することが決まったようです。トランプ政権下のアメリカにこの映画のメッセージがどのように届くのか楽しみです。


  • お勧め度: ☆☆☆☆(4巻までなら)
  • 対象年齢: 10歳以上(残酷かつ悲惨な描写もありますが)
  • 初発表年: 1973年
はだしのゲン

あらすじ

物語は、広島県広島市舟入本町(現在の広島市中区舟入本町)に住む国民学校2年生の主人公・中岡元(なかおか げん “以下、ゲン”)が、当時日本と交戦していたアメリカ軍により1945年8月6日に投下された原爆で、父・大吉(だいきち)、姉・英子(えいこ)、弟・進次(しんじ)の3人を亡くしながらも、たくましく生きる姿を描く。

戦時下の空気

「はだしのゲン」は、被爆者である作者自身の自伝的な作品です。戦時下、国全体が戦争に向けて高揚する中、反戦的な思想を持つことから「非国民」として様々な嫌がらせを受ける中岡家の様子から始まります。

田舎に住んでいたことがあるからわかるのですが、田舎的な同調意識というか、自由に意見の言えない雰囲気。その中で、自分を貫こうとすることの難しさが伝わってきます。

原爆の悲惨さ

そして、ゲンたちのすむヒロシマは核の火に包まれます。「はだしのゲン」に描かれた被爆直後の広島の町の様子はかなり残酷で悲惨、グロテスクなものでした。僕が小学生のころ、学校の図書館に置かれていた唯一の漫画が「はだしのゲン」でしたが、僕らは肝試しをするように恐る恐る漫画の頁をめくったものでした。

その後見た、アニメ映画でも原爆投下後の様子は悲惨で、目を背ける子どもも多かったように記憶しています。

作者の中沢さん箱の残酷な描写について「それによって原爆に対して嫌悪感を持ってくれればいい」と語っていたそうです。

戦災孤児の逞しさ

ゲンは被爆の後、家族を亡くした後も戦災孤児として、法に触れながらもたくましく生きていきます。今の子どもたちを見ていると信じられないような世の中なんですが、この話もほんの70年前の出来事なんです。僕の祖父は戦地に出向いていましたし、義父は空襲の戦火の元を逃げ回っていたそうです。

近いけれど遠く感じる戦争の現実として、子どもたちに是非読ませたい漫画です。

戦争・原爆への強烈な怒り

「はだしのゲン」から伝わってくるのは、戦争を引き起こした日本の軍部やそのトップである天皇、戦争を礼賛していた市井の人々、そして、原爆を落としたアメリカへの怒りです。こうした怒りは、漫画の中に溢れていて熱として伝わってくるようです。

4巻まで

ただ、気になるのがこの怒りが自虐史観へとつながっていってしまうこと。中沢さんにとっては事実だったのかもしれませんが、本当に軍部はアジアの各国で残酷な行いをしていたのでしょうか。原爆の犠牲となったヒロシマやナガサキの人々は、戦争を終わらせるためにやむを得ない尊い犠牲だったのでしょうか。

後半、中沢さんの怒りからあふれ出る思いが強くなりすぎるため、「はだしのゲン」は4巻まででよかったのではないかと個人的には思います。

4巻までは、日本だけでなく海外も含め、後世まで長く語り継いで欲しい漫画です。

5巻以降は、作者に同調することなく判断できるようになってから、当時の世の中の雰囲気を知ることもあわせて読んで欲しいです。

はだしのゲン 1
中沢啓治
中央公論新社
2013-07-04

↑このページのトップヘ