• お勧め度: ☆☆(山の魅力と怖さと)
  • 対象年齢: 15歳以上(エグイ姿もたくさん)
  • 初発表年: 2003年
岳

作品概要

若くして世界の名峰に登頂し、アメリカで山岳救助経験を積んだあと、日本へ戻り主に北アルプスで山岳救助ボランティアとして活動していた島崎三歩。そのもとに、椎名久美が長野県警山岳遭難救助隊の新人としてやって来る。
救助隊チーフの野田とボランティアの三歩の指導を受けて訓練、救助をこなしていた椎名だが、実際の現場で遭難者を救うことが出来ない現実に自信を失っていく。そのような厳しい環境にありながらも、なぜ人は山に登るのか、救助を続けるのかを問い続け、様々な現場を経験することで、他の隊員と共に山岳救助のプロとして成長していく。
救助活動の他にも、県警警備隊関係者への訓練などを通して山の安全に関わる人々や、山を訪れる人々との交流を描いている。主な舞台は北アルプスでも最も人気であるとされる、穂高岳、槍ヶ岳周辺、他に長野県松本市を中心に話が進む。

新の主人公は遭難者

「岳」は基本的に一話完結の山岳救助物語です。遭難事故を中心とした、さまざまな山をめぐる物語が展開していきます。全話を通じて登場する登山家であり山岳救助ボランティアである島崎三歩が主人公のようにも見えますが、一話一話を見ると、真の主人公は遭難者たちだと思います。最終章だけは違いますが。

僕自身はちょこっとだけ登山をかじっていますが、島崎三歩は、僕の常識からかけ離れた超人です。そのため、どうしても遭難者目線で読んでしまうからそう思うのかもしれませんが。

三歩

山の怖さ

「岳」は山岳救助の物語ですので、自然の厳しさ、救助できなかった命、目の前で失われていく命がたくさん出てきます。そういう意味では、かなりシビアな物語です。

山は美しいけれども恐ろしいものだということが伝わってきます。でも、これってものすごく大事なことなんです。

僕自身も、19時を過ぎ、暗くなった富士山を懐中電灯も持たずに下山している家族連れに会ったことがあります。予備のヘッドライトを渡し、その後、遭難情報はなかったので無事に下山できたと思いますが。山は、自然は、怖いものでもあるんです。

山の魅力

でも、山は怖いだけのものではありません。僕が文章化すると陳腐な表現になってしまうのですが、自然の壮大さ、都会での生活とは違う非現実感、疲労の先にある達成感といったさまざまな魅力があります。

「岳」はそんな山の魅力も伝わってくる漫画です。危険なだけで何の魅力もないところに、好き好んでいく人はいません。

個人的には子どもたちにも山の魅力を伝えたいんですが...最初に連れて行った山で雨にあって大変な目にあってしまったので、一緒に行ってくれないんですよねぇ。うちの子ども含め、山の魅力も怖さも知ってもらうために読んでほしい漫画です。


賛否両論な終わり方

15巻から最終章に入るのですが、ネット上でもこの最終章からは賛否両論です。ネタバレ禁止を課しているので、詳細は書きませんが、個人的にはもっと違うエンディングがなかったのかな...と思います。

この終わり方だからこそ伝わるメッセージもあるのですが。