• お勧め度: ☆☆☆☆(語り継ぎたい一冊)
  • 対象年齢: 10歳以上(わかりにくいかも)
  • 初発表年: 2007年
夕凪の街

概要

「夕凪の街」は、1955年(映画・小説版では1958年)の広島市の基町にあった原爆スラム(「夕凪の街」)を舞台にして、被爆して生き延びた女性の10年後の、心の移ろう姿と、原爆症に苛まれるという当時の広島市民を突如襲った現実を描く。
「桜の国」は、第一部と第二部に分かれている。主人公は被爆2世の女性。第一部は1987年の春、舞台は東京都中野区および当時の田無市。第二部は2004年の夏、舞台は西東京市および広島市など。映画・小説版では、第二部(2007年の夏)を中心に(※第一部は回想シーンの1つとして)再構成されている。
「夕凪の街」と「桜の国」第一部・第二部の3つの話を通して、3世代にわたる家族の物語が繋がっている。三編とも、主人公に思い出したくない記憶があり、それがふとしたきっかけで甦る・・・という底流を共有しつつそこで終わらず、原爆に後世まで苦しめられながらも、それでもたくましく幸せに生きてきた戦後の日本人を描いている。「一般庶民にとっての原爆」を真正面から扱った作品ではあるものの、原爆当日の描写はわずか数ページしかなく、原爆の重い影を背負いつつ過ぎていく日常を、あくまで淡々と描写するスタンスを取っている。
大江健三郎の『ヒロシマ・ノート』などを参考にあげており、タイトルは広島出身の作家大田洋子の原爆と原爆スラムの人たちに関するルポルタージュ的な小説作品である「夕凪の街と人と」と、太平洋戦争直前の小説家デビュー作「櫻の國」を下敷きにしているが、内容的にそれらとの直接の関連はなく、登場人物に特定のモデルが存在しているわけではない。ただし前者については「原爆スラム」が舞台になっている点で共通している。これに対し後半部と「櫻の國」との関係はタイトルが同じという以外の共通点はない。

短編集です

「夕凪の街 桜の国」は共通した家族が出てきますが、被爆者が主人公である「夕凪の街」と、その姪たちが主人公の「桜の国」の二本の短編集です。被爆者がテーマとなっていることもあり、気楽に娯楽として読める漫画ではありません。

わかりにくい点も

唐突に現在と過去とを飛んだり、登場人物の顔の違いがよくわからなかったり、登場人物の関係性がよくわからなかったり、コマ割の順番がよくわからなかったりと、初見ではわかりにくい点もある漫画です。ただ単に僕の読解力がないだけかもしれませんが。

でも、わかってくると、その説明の少なさが余韻というか想像の幅を膨らませてくれます。漫画でありながら、小説的な漫画とでも言うのでしょうか。

被爆者の感じる後ろめたさ

「夕凪の街」の主人公は被爆者です。被爆から10年後のヒロシマを舞台として、被爆して生き残った人が感じている後ろめたさが描かれます。そして最期も。

被爆した過去に触れずに淡々と過ごす日常。過去に触れられない背景にある「生き残ってしまった」という後ろめたさ。胸がぎゅっと締め付けられます。

過去と向かい合う被爆二世

「桜の国」では、被爆者や被爆二世への偏見の目が描かれつつも、登場人物たちは前向きに過去と向かい合おうとしています。

三人の姉を亡くした父親は、姉の足跡を知るためにヒロシマを訪れます。恋人が被爆二世であることを理由に、結婚に反対された子はヒロシマを訪れ、原爆の足跡を目にします。そして、その上で前向きに生きて意向とします。

結論はそれぞれが

「夕凪の街」へのあとがきとして「このオチのない物語は、三五頁で貴方の心に沸いたものによって、初めて完結するものです」と書いていますが、まさにそのとおりの物語でしょう。

唯一の被爆国として、被爆者の悩みを知ること、被爆者をはじめとした偏見と差別の目を知ること。長く語り継いでいきたい漫画です。うちの子もヒロシマに連れて行かないと。


ちなみに、広島のお好み焼きははぜやが一押しです。